
以下、一般公開をしない形で、主に三国マンガの研究者同士の良い刺激になればと思いNPO三国志フォーラムが主催した情報交換会の議事録。まだ学術的な場で公表されていない研究成果も含むため、誤解を招くことを覚悟で、わざと端的で省略した形で記した。第2回があるかどうか、それは一般公開されるかどうか未定。
・NPO三国志フォーラム
http://www.sangokushi-forum.com/
○議事録
三国創作における視覚的研究材についての情報交換会(仮題)
2012年7月5日 於 京都府京都市左京区
●出席者(以降、敬称略)
焦凡 京都精華大学大学院芸術研究科
陳曦子 同志社大学社会学研究科
塩見翔 関西大学社会学研究科
清岡美津夫 NPO三国志フォーラム
●連環画についての中国での調査の報告
報告者 焦凡
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ノート:連環画は中国特有の『マンガ』なのか?その絵本としての可能性を探って(2012年2月15日)
7月に連環画についての現地調査(上海、昆明、武漢、北京)を行った。それを写真と共に紹介。
・上海
子供が何を読んでいるか、書店で調査を行った。
子供は連環画を読んでいない。児童文学で、ジャンルはSF小説が多く、挿絵はカラー。
絵本売場を調査。入学準備や啓蒙のために絵本を買い与える。輸入物が多い。
大人達は図版ものを何を読んでいるか。奈良美智の画集。マンガ等。
『タンタンの冒険』の連環画がかつてあった。
連環画はガラスケースで展示されている。
図書館で昔の(国産の)絵本があったが、今は普及していない。
・昆明
宗教画、物語性がある。宗教的な年画もあった。
甲骨文字より古い起源を持つ東巴文字にマンガのような連続性を確認。
・武漢
民国時代の年画(ポスターのような女性のポートレイト)。革命宣伝の年画。
・北京
図書館に行ったが、改修中だったので一部調査できなかった。
出版物展示即売会を調査。宮崎駿監督作品の画集の海賊版、西遊記の浮世絵
美術館を調査。アニメーションの展示。『三国演義』の粘土人形(『三国兵馬』1987年)。
連環画ファンによる展示即売会を調査。連環画のファンが描いた連環画が売られていた。
全国連環画交易会(アンティークマーケット)を調査。古い連環画が売買されている。
美術館を調査。連環画のカラー原画が展示されていた。
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メモ:漫画学のススメ(2000年1月20日)
●この報告に対する質問・意見等(一部)
塩見:絵本と連環画はどう区別するか?
焦:一般的に、絵本は子供っぽい絵柄で、連環画は大人っぽい絵柄だ。
陳:一般的には、このような(※連環画を持って)大きさが連環画とされるが…(※線引きが難しいが、研究する上で定義付けが必要という結論)
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三国志絵本(1997年11月6日2011年4月6日)
清岡:連環画の編集体験をしたとのことだが、実際働いていたのか?
清岡:今と昔とでは制作過程は同じか?
焦:インターンシップのようなもので、実際、編集作業をした。
焦:昔は作家も同じオフィスで作業していたが、今は作家へのアウトソーシングとなっている。
清岡:連環画の制作過程について。
焦:編集と脚本とは近い位置にあり、脚本は新聞記事や小説を元に書かれる。
清岡:展示即売会と全国連環画交易会とのファン層が重なるところはあるのか?
焦:これから調べる必要があるが、今回の印象だと一部重なる。
清岡:連環画の会社で主要なところは何があるのか?
焦:北京連環画出版社と上海人民美術社。昔はもっとあった。
清岡:昆明での宗教画はどんな物語を題材にしているのか?
焦:特に有名な物語ではない。
●博士論文概況(三国マンガと西遊記マンガの日中比較等)
報告者 陳曦子
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ノート:日本における三国志マンガの翻案過程(2012年6月23日)
※追記
三国志学会 第七回大会(2012年9月8日土曜日)
・研究対象
日本のストーリーマンガを中心に研究(三国マンガと西遊記マンガとの年表)
作家の意識。対象となる作品は翻案中心。
・三国(※日本マンガ学会第12回大会での研究報告がベース)
日中での認識の差異(例えば同一人物について)を、マンガという媒体を中心に分析。
表象、内面(人物の描き方)、作者の意図・意識の三つの面から考察
例、『覇-LORD-』
作品中での劉備について。
董卓について。外見は西田敏行、中身は毛沢東を感じさせ、そこから作者の意図を読み取る。
『天地を喰らう』はSF要素、ファンタジー要素の嚆矢
三国マンガの単行本初巻数(つまりシリーズタイトル)のグラフを描くと、2008年にピークになる。理由:『レッドクリフ』
2000年代に入ると『一騎当千』等の美少女萌え等のマンガが出てくる。「創作傾向 iii 読者のニーズによる創作」
陳維東・梁小龍/著『三国演義』(マンガ)は大陸では5000部発行。教育向け
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覇-LORD- 連載再開(2011年6月10日)
天地を喰らう(スロット)
呉宇森(ジョン・ウー)監督『レッドクリフ(RED CLIFF)』報道まとめ
一騎当千19巻(2012年2月25日)
中国名作新漫画「三国演義」全10巻(2010年2月8日)
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メモ:映画 真・三國無双(心斎橋2021年10月23日)
・日本マンガ学会大会でも発表した「創作傾向」
それらに加え美少女萌えの中でも分類できる。
・『一騎当千』を題材に「ジェンダー意識」を見る。
女性キャラははっきりした萌えポイントある。
どれが女性キャラでどれが男性キャラかという研究の切り口。
※追記
一騎当千20巻(2012年9月26日)
・読者層の研究。
『覇-LORD-』 大人向け 『龍狼伝』 少年向け等
・夏目房之介「パロディ」(『漫画学入門』P.211-214, ミネルヴァ書坊2009年4月20日)
P.212より
「竹内オサムは、『話の特集』『宝島』「ビックリハウス」などに触れ、週刊朝日連載「山藤章二のブラックアングル」なども含め、70年代を「パロディの流行した時代だった」(竹内『マンガと児童文学の〈あいだ〉』1989年, 大日本図書)とする」
この文を承け、三国マンガと西遊記マンガとにパロディーマンガの相関性があるのではないか。
・西遊記マンガとの比較
三国マンガほど、はっきりとした創作傾向の区分がない。
四方田犬彦「II-2 偉大なる旅行記の猿──『西遊記』はどう描かれてきたか」(『漫画原論』P.240-272, 筑摩書房1994年6月20日)を引き合いにだしつつ。
※追記
横山光輝「三国志」の魅力に迫る(2010年10月5日)
・関羽の日中間の差。
関羽は中国ではイメージ固定。
マンガは教育学習要素がないものは良いものではないという親たちの意識があるため、日本のようにイメージを崩せない。
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第2回三国志学会大会ノート2
・『ランペイジ』
『ベルサイユのばら』を意識しているのでは、という研究の一部の紹介。
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『ランペイジ』(2007年9月19日配信開始)
メモ:歴史漫画における少年漫画と少女漫画との違い
●この報告に対する質問・意見等(一部)
焦:作家性と読者層の分析は連環画研究に通じるところがある。
塩見:中国でのイメージについて参照する研究はあるか。
陳:比較文化研究等。
(※この後、長い議論に発展していたが、清岡が書記を追えず)
塩見:作品タイトル数の増減グラフで上げられた作品の傾向にどういったものがあるか?
陳:(「日本マンガ学会第12回大会で発表した創作傾向について触れられる)
「創作傾向 i 中国文化の紹介・歴史の学習としての創作」、「創作傾向 ii 作家の自主的な創作」、「創作傾向 iii 読者のニーズによる創作」の大きな三つでそれぞれさらに細かい分類がある。
塩見:続き物はどういった割合であるか?
陳:全1巻が結構多い。雑誌連載の比率が関わる。
塩見:(グラフ上で現在を「冷却期」としていたのに対し)もしシリーズものが何点か刊行され続けていれば、「冷却期」とは言い切れなくなるのでは?
陳:博論では「冷却期」という表記は外すつもりだ。
(※清岡注。指摘を頂いたのでこの箇所、訂正)
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日本海新聞に中華コスプレ日本大会の記事2007その2
塩見:横山光輝『三国志』の張飛の緊箍(頭の金のリング)は実際あったのか?
清岡:「ない」と即答できる。
陳:『絵本三国志』の影響だろう。
清岡:(可能性としては桂宗信/画『絵本三国志』、葛飾戴斗二世/画『絵本通俗三国志』等と無数にあるが、実際に早稲田大学図書館の古典籍総合データベースで葛飾戴斗二世/画『絵本通俗三国志』の張飛を見てみると、それだとのこと)
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2006年7月29日「三国志シンポジウム」雑感2
古典籍総合データベース(早稲田大学図書館)
※追記
『イナズマイレブンGO クロノ・ストーン』で劉備登場(2012年10月3日)
※追記
『爆生レッドカーペット』で三国志ショートコント(2012年10月13日)
清岡:(諏訪緑/著『玄奘西域記』、同著『諸葛孔明 時の地平線』と研究テーマに沿っているので)少女マンガの方の研究を行う予定はあるか?
陳:これから先ピックアップ予定。
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2007年5月 2つの少女漫画連載終了
清岡:『覇-LORD-』の見開きページの研究は比較するデータ(他の三国マンガ)があるとよりよくなるのでは?
陳:例えば『蒼天航路』との比較をやる予定。
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2005年11月10日「蒼天航路」堂々完結
清岡:「江戸時代の『三国演義』の最初の日本語版が出版された時から、その内容は訳者の湖南文山によって大きく改変されていた」の具体例は何かあるか?
陳:雑喉潤/著『三国志と日本人』(講談社現代新書)より。
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講談社と三国志
清岡:創作傾向の区分に、具体的な作品名を添えた方が良かったのでは?
陳:年表として持っているが、発表では時間制限から出さなかった。
塩見:「三国演義」と「西遊記」の二本立ての理由は何か?
陳:サンプルを抽出しやすい。また日本で浸透している時期が長いため。
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井波律子/著『中国の五大小説(上)三国志演義・西遊記』(2008年4月22日)
塩見:西遊記マンガに萌えマンガはあるのか?
陳:西遊記マンガに成人マンガが多い。
(その理由について友人から妖怪を扱っているから、と示唆されたとのこと)
清岡:どういった理由で作品を選んだか?
陳:(ストーリーマンガという前提で)知名度、完成度、再創作の度合い。
●必要に応じいつでも発表ができるように持ってきた資料を折角だから見せる
報告者 清岡美津夫
2011年9月10日開催の「三国志フェス2011」のサイト
「三国志フェス2011」での「1日限定!三国志コレクション展」の展示物の写真
林 巳奈夫/編『漢代の文物』(京都大學人文科學研究所1976年12月15日)
孫機/著『漢代物質文化資料図説』(文物出版社1991年9月)
『西北出土文献研究』第5号(西北出土文献研究会2007年3月)
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三国志フェス2011リンク集
1976年 林 巳奈夫/編「漢代の文物」
孫機/著『漢代物質文化資料図説』
メモ:「中国服飾史上における河西回廊の魏晋壁画墓・画像磚墓」
●この報告に対する質問・意見等(一部)
塩見:三国志ファンの男女の割合はどれくらいか?
清岡:作品によってまちまち。「三国志フェス2011」では半々ぐらいだった。
塩見:『西北出土文献研究』第5号等、どこが「三国志」と関係があるか?
清岡:(三国時代を含む)その当時の服飾等の実際の研究について見て貰いたかった。
塩見:(『西北出土文献研究』第5号収録の)小林聡「中国服飾史上における河西回廊の魏晋壁画墓・画像磚墓」の図4は何を意味しているか?
清岡:(テキトーに)拝礼しているところ?
塩見:(図のタイトル「高閘溝晋代太守墓の「行刑」画像墓」を指して)「行刑」となっているが?
清岡:この拝礼をしているように見える官吏(進賢冠を戴く)二人を右の官吏二人が杖刑に処すところ。
※追記
メモ:日中における『三国志』の受容と再創造の概況
※追記
第36回 秋の古本まつり(京都古書研究会2012年10月31日-11月4日)
※追記
ノート:三国志学会シンポジウム(2013年9月21日)
※追記
日中における中国四大名著のマンガ比較研究(同志社大学2013年3月21日)
※追記
レポート:関プチ5 全国ツアー:6/22特別講座「新発見!三国志と日本」勝手に予習(2014年6月22日)
※追記
メモ:横山光輝展 豊島区立中央図書館(2014年10月4日)
※追記
三國志研究第十号(2015年9月5日)
※追記
東京便り―中国図書情報 第25回(2016年1月)
※追記
メモ:三国志巨大ジオラマ(2016年9月19日訪問)
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日本マンガにおける秦始皇帝兵馬俑鎧甲デザインの伝播(京都2018年6月23日)
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メモ:神怪ワールドを堪能させる『西遊記』(中)(2017年9月10日)
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