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ノート:六朝建康都城圏的東方―破崗瀆的探討為中心(2014年12月6日)
前の記事で久々に学術の場に触れたのだけど、それでもなかなか手元の研究に気が向かないでいた。2014年12月20日土曜日に三国と無関係に関東へ行く用事があったので、どうせだったらやる気のてこ入れにひとまず国立国会図書館に行こうと思っていた。
移動は青春18きっぷを利用したJRの鈍行列車だ。ちょうど冬季の利用期間中なので。
・青春 18きっぷ - おトクなきっぷ:JR東日本
http://www.jreast.co.jp/tickets/info.aspx?GoodsCd=2125
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兀突骨(福岡県北九州市)
列車の中では、下記の三国志ニュースの記事を書いたり、デイヴィッド・A・プライス/著、櫻井祐子/訳『メイキング・オブ・ピクサー 創造力をつくった人々』(早川書房2009年3月25日発行)の読書に当てたりしていた。
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呉書見聞 復活の兆し(2014年12月9日)
レッドクリフ PartI&II(イマジカBS2014年12月2015年1月)
新橋駅で東京メトロ銀座線に乗り換え、さらに溜池山王駅で東京メトロ南北線に乗り換え、14時46分に永田町駅に到着し、駅構内を延々と歩いて、東京メトロ有楽町線のホームを通り、改札を出て、階段を登り、少し歩いて、国立国会図書館新館に到着する。
・国立国会図書館―National Diet Library
http://www.ndl.go.jp/
といっても具体的に新館で何をするかがっちりは決めておらず、ひとまず下記関連記事で触れた、三国志学会 第九回 京都大会 懇親会にて上原究一先生からご指摘のあった横山光輝『蛟竜』について確認しようとしていた。
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メモ:企画展 生誕80周年記念 横山光輝(2014年10月4日)
その初出については上記関連記事の展覧会での図録には横山光輝先生のpp.30-31に「横山光輝作品初出及び発表(掲載)期間一覧」があって、『蛟竜』についてもバッチリ載ってあって持ち込んでいた。そのページに「『ボーイズライフ』4月号~S41年2月号」「1965 4 ~ 1966 2」「小学館」とあったので、図書館の端末で『ボーイズライフ』について検索すると、どうやらデジタルデータ化されており、『蛟竜』についても載っていた。
それですっかり安心してしまっていて、それより17時閉館までに何かしないといけないと思い、過去に閲覧しようとしたら「作業中」だった図書・雑誌をチェックする。
大半はやはり「作業中」で、太平洋文庫の福井英一『少年三国志』のように閲覧ができないままだった。
・少年三国志 (太平洋文庫): 1954|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000823929-00
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少年三国志(1953年6月-1954年7月)
それらの中でデジタルデータ化が完了し閲覧できるようになっていたのがあった。瀧本弘之「「連環画」の転変──「三国志」からマズレールの復刻まで」(『月刊しにか』2000年10月、pp.100-105)だ。後述する論文において参考文献の一つに挙げられていて前から目を通しておきたかったが、古書市で見つけられずにいた。
・「連環画」の転変--「三国志」からマズレールの復刻まで : 2000-10|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I5517456-00
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中国古典文学と挿画文化(2014年2月)
タイトルに「三国志」とあるものの、あくまでも連環画メインなんだろうな、と思いつつ目を通す。とりあえず押さえておきたいところの引用。
p.101b
━引用開始━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
当時の上海は、連環画ブームだった。一九二〇年代に入って、露店で連環画の貸店(これを書攤という)が氾濫した。映画の普及などの条件が幸いして、こうした通俗出版文化が開花したのである。
━引用終了━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※「書攤」に「シュータン」というルビ。
もちろん三国に関係するところもあって、下記に引用する。近代的な意味での「連環画」につながる歴史が記述され、この文を見る限り、光緒二十五年の出版や「諸葛亮招親」「七擒孟獲」等、三国が重要な役割となる。
p.102b-103a
━引用開始━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
阿英によれば、清末の連環画は、「回回図」にはじまるという。回回とは毎回一図の意味である。光緒十年(一八八四)ころの『聊斎志異』『今古奇観』『三国演義』『水滸伝』『紅楼夢』などが最も早期の「回回図」で、絵は勿論筆で描かれ(石版印刷)、その筆法も細かかった。ついで現れたのが、光緒二十五年(一八九九)の『三国志』で、画家は朱芝軒、出版は文益書局であった。図版は二百点ほどあって、一回ごとに二図が付けてある。これはそれまでの多くの三国演義の百回本の形式を援用したもので、連環画としての完成度は高い。
民国になって京劇ブームが到来し、上海の丹桂戯台で「諸葛亮招親」「七擒孟獲」が懸けられたが、朱芝軒は仲間の劉伯良、李澍丞をさそって舞台衣装のままに画を制作した。演劇の背景を描き、登場人物もそっくりである。芝居を見られない人々も、雰囲気を味わえる。通俗性も十分で大いに当たった。
一九二〇年代になって連環画は発表の基礎を強固なものにした。それまで、各地で「小人書」「菩薩書」など名称もバラバラであったが、民国十四年(一九二五)に上海世界書局が出した『西遊記』の表紙に「連環図画」と入れたのが定着したという。この「連環図画」が「連環画」となったのは建国後である。因みに魯迅は「連続図画」を推している。連環画では、循環して「終わりがない」と誤解されるからだ。
━引用終了━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※『三国志演義』の通行本である毛宗崗本は百二十回なのだけど、そこらへんの版本について詳しくなく百回本の系統もあったような気がするので、ひとまずノーコメントで。
上の引用部分の最後の段落の「連環図画」について、その作品に『連環圖畫西遊記』(1925年)が上がっているが、ここらへんは『連環圖畫三國志』(1927年)とする論文もある。
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リンク:中国の連環画の変遷とその描写技法
ノート:連環画は中国特有の『マンガ』なのか?その絵本としての可能性を探って(2012年2月15日)
リンク:臺灣流行閲讀的上海連環圖畫(1945-1949) (2009年6月)
メモ:第6章 武侠漫画の映画的手法表現の成立をめぐって
また引用部分のp.103での次の段落(つまり引用していない)の冒頭文では連環画における「吹き出し」の起源についても触れられており、「いわゆる「吹き出し」、絵の中に入れるせりふ文字は民国十年(一九二一)にはじまったが、あまり普及していなかった。」とある。
さらに次の次の段落は連環画を扱っていた貸店について、容正昌「連環図画四十年─記連環図画展覧会」を参照する形で、具体的な店舗数(上海で二千五百四十六軒)や連環画(各店を平均し二百から二百五十)の点数が書かれている。
p.103からp.105の最後までは現代(といってもこれの書かれた二十世紀末だけど)の連環画について書かれている。まず上海図書館の斜め前のコンビニの「羅森」(ローソン)の様子として下記に引用することが書かれている。
p.104a-b
━引用開始━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
オールカラーの旅行雑誌が、数種類置かれているのに混じって、かつての連環画の牙城「上海人美」こと上海人民美術出版社から、『動画大王』と題する月刊雑誌がでている。これが現在の「連環画」のひとつの姿である。内容はアニメや劇画風の漫画で、我々にとって特に新鮮みはない造りだ。
二十年ほど前には町角の至る所に見かけた、かつての小型本「連環画」も、それを読ませる「書攤」も町角から姿を消している。それを読むはずだった読者は、こうした新しい雑誌を手にしているようだ。
福州路などの大型書店では、セットになった豪華な装丁の小型本連環画の『三国志』や『西遊記』『紅楼夢』が、高値を誇っている。これはいわば一風変わったお土産であり、コレクター向きの豪華本だ。北四川路などの町角に出ているガラクタ骨董の店には、読み古され手垢にまみれた懐かしい「小人書」が積み上げられていた。
━引用終了━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「『動画大王』2000年6月号の1ページ。」…というよりどうみても4ページ分の縮小コピー(その元々の雑誌の掲載時からだろうが)がp.104bに転載されているが、絵柄や型にはまらないコマ形式が日本の少女マンガ形式で、先に引用した「「連環画」のひとつの姿」は、個人的には公園にいるハトを「「恐竜」のひとつの姿」と表現するような違和感があるかな。
そして最後の段落に続く文は下記のサイト(すでにサーバー自体存在しないので、Internet Archive内の2000年8月18日分)の紹介に繋がっており、連環画がすっかりコレクターズ・アイテムになった様が記述される。
・连环画收藏--中国第一家连环画收藏网站
https://web.archive.org/web/20000818061727/http://member.netease.com/~ewan/
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大トロ倶楽部(1987年4月17日-1990年7月20日)
※追記
『エレ片のコント太郎』2015年1月25日分
※追記
メモ:知られざる中国〈連環画 (れんかんが) 〉 ~これも「マンガ」?~ (2015年5月24日30日)
※追記
東京便り―中国図書情報 第25回(2016年1月)
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メモ:諸星大二郎が『西遊記』を語る「西遊妖猿伝」における表象分析(ビランジ45号2020年2月22日発行)
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