※前記事
リンク:中国の連環画の変遷とその描写技法
※参照記事
ダメ人間の世界史(2010年3月16日)
上記参照記事にあるように、メーラーのEdMaxを使って個人的にチェックしている掲示板に、下記サイト「徹夜城の多趣味の城」の掲示板「史劇的伝言板」がある。
・徹夜城の多趣味の城
http://www2s.biglobe.ne.jp/~tetuya/TETUYA.HTML
そこにある投稿#8845が気に掛かる。それは映画『レッドクリフ』(原題『赤壁』)に関する書き込みであり、主にその映画ででてくる「甲冑」が当時のものをどれほど再現しているものかという疑問だ。
・RED CLIFF 映画『レッドクリフ』公式サイト
http://redcliff.jp/
※関連記事
呉宇森(ジョン・ウー)監督『レッドクリフ(RED CLIFF)』報道まとめ
当時のズバリのものは発掘されていないので、直感的には、ある程度、取り入れているが、映画のようなマントとかローブとか、畫像磚石や明器でも見られないものが平気で出てくる程度の時代考証だと思っていた。しかし、特に何か確証があってそう思っている訳ではないし、これを良い機会だと思い、ある程度、自分や誰かの参照できるものをメモとして残そうと思った。ちょうど下記関連記事のように「虎牢関」、「武冠」や「拝」などについて書いたときのように。前記事で触れたように、視覚的要素を含む現代日本の三国作品の変遷に興味があるものの、当時のデザインでない鎧を見た場合、「腹巻きタイプの鎧」(清岡命名)とか「伝統的なデザイン(≠歴史に忠実なデザイン)」とか個人的には一言で片付けているので、説得力がなく、「ではどんなのが当時のデザインなのか」と聞かれた場合、ぼんやりとしか説明できないからだ。
※関連記事
メモ:虎牢関って
メモ:武冠のあみあみ
三国創作のための拝メモ
「甲冑」の「冑」はともかく「甲」(よろい)はというと、下記関連記事で触れた2008年10月12日開催の「東アジアの出土資料と交通論」での報告「漢代北方の地域社会と交通―県城遺跡と漢墓の技術から―」を思い出す。
※関連記事
「東アジアの出土資料と交通論」ノート3
上記関連記事(というかノート)にある該当部分を下記へ引用する。
━引用開始━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実はこの二十家子城址は別の点でも重要な城になっている(※スクリーンに二十家子城址出土の鎧のスケッチが出てくる。林 巳奈夫/編『漢代の文物』挿図10-74でスケッチされるのと同じ鎧)。前漢の武帝紀の甲冑の構造を知ることができる史料はほとんどないが、考古学で武装の話をするときに必ず引かれる史料。
━引用終了━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
出土しているものであれば、三国時代や『レッドクリフ』の時代設定となる後漢末の鎧に時代的に近いのは、この前漢の武帝紀期と言われる鎧だろう。改めて、林巳奈夫『漢代の文物』(1976)「一〇 武器、旌旗」のP.469「II武具」「(1)鎧、上身、髀褌、踁繳、益領」を読む。
※関連記事
1976年 林 巳奈夫/編「漢代の文物」
印象に残ったのは、『周礼』夏官、序官、司甲 鄭玄注の「甲、今之鎧也」という文を引き、当時は「鎧」と呼び、それより昔では「甲」と呼ばれていたことがわかる。また、『漢書』巻二十三刑法志の注に「如淳曰:「上身一、髀褌一、踁繳一、凡三屬也。」」とあり、それが鎧の上半身部分を「上身」、腿当て部分(剣道の防具でいう垂れ?)を「髀褌」、脛当て部分を「踁繳」と呼ぶと示される。
そして挿図に、「武帝晩期のものとされる呼和浩特二十家子古城出土のものが知られる」(P.470より)鎧のスケッチが掲載されている。その形状は「胸と背をおほふ主要部は幅二・三~三・五cm、高さ一一cmの小札を縅し、七段重ねたもの」(P.470より)だという。それを見ると、現代日本の着物のように前で鎧を開閉し着脱するようにできており、それは「10─70圖の土偶には鎧を前で合わせた様がうかがはれる」(P471より)とのことで、別の文物からもそれが確認できる。また出土した鎧の重さは11.14kgとのことだ。
※関連記事
孫機/著『漢代物質文化資料図説』
次に上記関連記事で触れた、孫機/著『漢代物質文化資料図説』(1991)のP146の「37 武備VI 甲、冑」を読む。こちらにも『周礼』夏官、序官、司甲 鄭玄注が引かれてるものの、『漢代の文物』とは別の箇所で、「古用革謂之甲、今用金謂之鎧。」とあった。なるほど、昔の革製の鎧を「甲」といったのか。また『漢代物質文化資料図説』の挿図にあるのは、『漢代の文物』に載る「呼和浩特二十家子古城出土」のものではなく、「臨淄齊王墓陪葬坑出土的鉄甲之部分甲片的中部還貼有方形金箔和銀箔(37─4)」(P146より)で、巻末にある挿図の説明には「37─4 貼金銀魚鱗鉄甲,山東淄博窩托村,西漢.≪考古≫1987:11,圖版8」と書かれており、1976年に刊行された『漢代の文物』で1987年に公開されたものが取り上げられていないのは道理だ。この鎧は二十家子古城出土のものと違い、小札が四角ではなく丸まっておりまるで魚鱗のようになっている。また前で鎧の開閉をするのではなく、右前で行うようになっている。
『漢代物質文化資料図説』は1991年の刊行なので、より新しい論文がないか、「二十家子古城」を検索語句にネットで検索すると、下記のようなページが引っかかる。そこで小林謙一「東アジアにおける武器・武具の比較研究」(平成16年度~平成19年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書(課題番号16520478)、2008年7月)を読めるようだ。
・XooNIps - 奈良文化財研究所 学術情報リポジトリ
http://repository.nabunken.go.jp/
・東アジアにおける武器・武具の比較研究 - XooNIps - 奈良文化財研究所 学術情報リポジトリ
http://repository.nabunken.go.jp/modules/xoonips/detail.php?item_id=1199
※新規関連記事
URL:伊都国「王墓」ガラス玉、「草原の道」から 中央アジア出土品と一致(朝日新聞デジタル 2021年9月18日)
この記事の本題からいって、見るべき所は、この論文の「IV 中国の甲冑」という章の冒頭部分だ。まずそこに対応する挿図を見ると、前述した『漢代の文物』の二十家子古城出土の鎧と『漢代物質文化資料図説』の臨淄齊王墓陪葬坑出土の鎧のスケッチの両方とも掲載されているのがまず印象に残った(つまり両方の書籍を持っていない方で興味のある場合はこの論文を要チェック)。
それについての説明が順序立ててあって、まず当時の鎧の分類から入る。前述の通り、当時の鎧は小札を重ねたものであり、その小札の形状から分類されるとのことだ。臨淄齊王墓陪葬坑出土の鎧のような「鞐形あるいは楕円形に近い小形」のものは「鎧甲I」とし、二十家子古城出土の鎧のおうな「細長い長方形あるいは頭円下直截形」のものは「鎧甲II」と分類している。これらは同時に発掘されたことがあり時代的に併存しているものとのこと。
さらにその小札を重ねた綴じ方でも分類されている。それは「上から下に向かって順次下に重ねて構成される」ものを「上下方向の可動性がない固定綴」を「A」、「上から下に向かって順次上に重ねて」いるものを「上下方向に伸縮性を有する可動綴」を「B」としている。これはこの論文オリジナルではなく増田精一「武器・武装─とくに札甲について─」(『真版考古学講座』第5巻原史文化<下>、1970年)には、それぞれ「B型札甲」「A型札甲」という分類がすでにあるそうな。
ここで話を冒頭に戻すのだけど、映画『レッドクリフ』のどこらへんにこれらが反映されているか、だ。ただ清岡は『レッドクリフ』のPart I,IIを一通りしか見たことがないので、詳細に比べられないので、一言二言ぐらいしか書き記せない。前述の映画『レッドクリフ』公式サイトの登場人物のところを見ると、中村獅童さん演じる甘興(※甘寧をモデルにしたオリジナルの人物)の鎧は、一見、大体、「鎧甲IA」っぽいが小札が不自然に小さいから参考にしてなさそう、とか、そこの周瑜と趙雲の鎧は「腹巻きタイプの鎧」や「伝統的なデザイン(≠歴史に忠実なデザイン)」ではなく小札の集合を使っているが、そもそもその小札が重なっていないので(小札の隙間に刃が入りそうで防御できなさそう)、参考にしてなさそうとか、そもそも鎧のどこを開閉するか表現されていないとか思った。「ムービー」のところを見ると脇役や兵卒の鎧は「鎧甲IIA」を参考にしているっぽい(ただ公式サイトからだとちゃんと「上身」で小札が重なっているかどうか確認しづらい)。あと『漢代の文物』に出てくる「首鎧」が特に見られないのは、やはり映画なんで顔が見づらいと困るからなんだろうね。
※追記
三国志 完全ビジュアルガイド(2011年3月16日)
※次記事
リンク:「漢代の飮食」
※追記
コスロケ&交流会 IN 杭州・蘇州(2011年11月3日-6日)
※追記
日本における三国志マンガの翻案過程(2012年6月23日)
※追記
三国演義連環画と横山三国志
※追記
イナズマイレブンGO2 クロノ・ストーン ネップウ/ライメイ(2012年12月13日)
※追記
第17回三顧会 午前(2012年8月14日)
※追記
図解 すぐに理解できる! 中国歴代王朝と英雄たち(2012年11月30日)
※リンク追記
・STOP!違法ダウンロード
http://www.stopillegaldownload.jp/
※上記サイトから引用すると「CD等を購入したり、インターネット有料配信などを通じて購入できる音楽や映像であるにもかかわらず、違法な手段を用いて入手するケースは悪質であるため、厳しい刑事罰が科せられることとなりました。」とのことで、検索語句にzip,torrent(トレント),rar,lha,mediafire,pdf,DL(ダウンロード),nyaaを含む場合は違法な手段と見なされ、その上、経由した各サーバーにその記録は残り、後から罪に問われかねない。著作権や肖像権を侵害したBD・DVD自作ラベル、カスタムレーベル等を含む検索語句についても同様。
※追記
メモ:川本喜八郎人形ギャラリー(2013年4月7日27日)
※追記
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※追記
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※追記
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