1975年に初版、1999年・2000年に第2版が刊行された徳間書店の「十八史略」の訳本が文庫化され2006年10月から一ヶ月ペースで刊行されている。部分的に原文と書き下し文が書かれている。第2版の価格が1900円ぐらいだったのが文庫版だと1000円となっている。
『十八史略』(じゅうはっしりゃく)とは元代の曾先之の撰で史記、漢書、後漢書、三国志、晋書、宋書、南斉書、梁書、陳書、後魏書、北斉書、周書、隋書、南史、北史、新唐書、新五代史の十七の史書(正史)に、当時まだ宋史ができていなかったので、続資治通鑑長編と続宋編年資治通鑑を加えたものから事柄を部分的に抜き取って時代順に構成した史書だ。全七巻。
この徳間書店の訳本は全五巻で、順に「覇道の原点」、「権力の構図」、「梟雄の系譜」、「帝王の陥穽」、「官僚の論理」というサブタイトルがつけられており、おそらく文庫本もこれに準ずると思われる。
実際、文庫版の一巻を買って読んでみる。三国志関連の時代以外のことをまったく知らないというよく居る三国志ファンの私にも分かりやすく興味を持ったまま読みすすめることができた。その秘訣は何かなと思っていたら、文庫版の一巻にズバリそのままのことが書いてあった。「解題 一、『十八史略』の構想」というところの「『十八史略』の特色」と銘打たれた小項目の文だ。以下、引用。
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一定の紙幅のうちに網羅しようとすれば、いきおい叙述は簡略にせざるを得ない。しかし、その簡略さは、抽象化する方法によるものではなく、要点だけを具体的に示すという方法によったものであるから、読む者に、もっと深く知りたいという意欲を起こさせるような簡略さなのである。初学者を本格的に史書に向かわせる絶好の手引書とされるのは、このためである。
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どうしても何かを簡略化させようとすると抽象化させたり、概略を示したりしがちなんだけど、こういうふうに具体的なことを部分的に抜き取る方法も効果的なんだな、と思い知る。
上の文に「もっと深く知りたいという意欲を起こさせる」とあるように、実際、私も史記で照らし合わせたりしていた。
そこで思ったんだけど、三国志ジャンルの入門者に対し、この技法は使えないかな? と。
幸い、『十八史略』の元となる史書群に『三国志』が含まれており、ちょうど『三国志』の記載がでてくる訳本(文庫)の「十八史略 3 梟雄の系譜」は2006年12月8日に刊行されるので、それがこの技法の良いお手本になることだろうし。
・「十八史略 3 梟雄の系譜」(文庫)の三国志関連部分
http://cte.main.jp/newsch/article.php/470
※追記
十八史略 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典(2011年1月25日)
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三国志をまったく知らない人にとって、三国志といえば「なんか難しそう」と思うか、「ひげ面の男たちが闘っているやつ?」とか漠然としたイメージを思い浮かべるんだろう。そういう人たちにとって簡略化は重要で、そうしなければ前者だと「やっぱり難しいものなんだ」とかなるし、後者だと「こんな難しいものだったの?」とか第一印象でつまずいてしまう怖れがある。
そういった意味では現状で、ネットにしろリアルにしろ三国志ジャンルの入門者に手引きとなる簡略なもので諸手をあげてすすめられるものなんて一つもないように思える。
かといって既存の創作物をとりあえずすすめておくような逃げに出ると、正史だの演義だの吉川版だの宮城谷版だの横山版だのと口走るような誤った認識をしてそうな三国志ファンの量産に加担しているような歯がゆい気分になる。
そんな気分になったときはいつも三国志ジャンルの入門者向けの手引きコンテンツの作成を夢見てしまう。
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