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美術鑑賞メモ「グッゲンハイム美術館展」
040823
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展覧会名:ニューヨーク・グッゲンハイム美術館展   モダンアートの展開
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間:2004年7月17日(土)〜10月24日(日)
鑑賞日:2004年8月5日



   渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムには以前、ゴッホ展で行ったことがあるので、道に迷う心配はなかった。だけど、スケジュールが詰まった状態で、強引に行こうとしたのが失敗のもとで、行く道を歩きながら冷静に考えてみると美術鑑賞に一時間ぐらいしかかけられないことに気付く。
   まぁ、それは仕方ないか、とばかりに私の頭は短時間で絵画を楽しむモードに切り替わっていた。

   今回の展覧会は「ニューヨーク・グッゲンバイム美術館展」。名前からいってその美術館が所蔵する絵画をみせる展覧会なのだろう。余談だけど、<<「メトロポリタン美術館展」とか<<「マルモッタン美術館展」とか前回の<<「ランス美術館展」とか、○○美術館展と銘打たれた展覧会には何度か行っているので、数ある絵画をどう配置するかで、展覧会の善し悪しが大きく変わってくることを知っている。
   副題は「モダン・アートの展開−−ルノワールからウォーホールまで」。おぉ、近代絵画よりの展覧会なんだ、と心躍る。

   で、入り口から入る。
   まず目に付いたのが、今回の展覧会の展示作品リストのチラシ。こういった配慮はホント、ありがたい。リストの裏を見ると、しっかりスポンサーの広告がついていたのはご愛敬。むしろスポンサーの広告でリストができるのだったら、広告をバンバン、入れて欲しいという気持ちだ。
   初めに出会った絵画はオーギュウスト・ルノワール「女性とオウム」。女性がかごからオウムをだして愛でている(?)絵画。女性の服が黒に赤いリボン状の装飾がたれていて、色彩が印象的。めりはりがある。ルノワール好きの私はこれで満足して「さぁ帰ろう」なんて思ってしまうぐらい。
   印象派を中心に持ってくる展覧会ばかり見てきたせいか(というか日本ではそれが圧倒的に多い)、印象派のルノワールの絵が最初に出てくるなんて妙な感じがする。いつもだったらこれがメインで、チラシやポスターに使われていてもおかしくないぐらい。
   回りをみわたすと、印象派周辺の絵画が続く。作家陣はアンリ・ルソー(あいかわらずどこかユーモラスのある絵)、フィンセット・ファン・ゴッホ、ポール・セザンヌ、ジョルジョ・スーラ……   なるほど、だいたい時代順に美術館の所蔵品を並べていく見せ方ね。ここら辺から徐々に出していってモダン・アートでピークが来るような感じにしたんだね。にしてもいきなり豪勢な作家陣。
   時間もないことだから先をいそぐことに。フランティシェク・クプカ「色彩による平面、大きな裸婦」ぐらいから抽象的概念的要素が絵に入ってくる感じだった。この絵はタイトル通り裸婦がかかれているんだけど、造形も色彩もだんだんと既存の絵画から離れていっているようだった。肌の色が紫のところがあるし。続いて私の目を引いたのがロベール・ドローネ「都市」。確かにタイトル通り都市の絵なんだけど、ついにキュビズムがはいってきている。雑然とした中にも視覚的に面白い。すぐ近くのフェルナン・レジェ「たばこを喫す人々」もキュビズム。だんだんと時代の変化がでてきている。
   そう思いながら歩いていると、ピート・モンドリアンの三つの絵画に出会う。これも代表的な抽象絵画だ。特に「コンポジション8」。ぱっと見てただ黒い十字が無作為に並んでいるだけに見える。
   そこから少し歩くと幻想的な色彩と造形の絵画群。マックス・エルンスト「動物のいる都市」、それから日本でも馴染みの高いマルク・シャガールの絵「空飛ぶ馬車」。抽象的な世界から急に幻想的な世界に放りこまれた感じ。夢心地で良い気分。そんな印象の強いシャガールの絵だけど、すぐとなりの様子ががらりとかわる肖像画が展示されている。「画家の妹アニュータの肖像」。赤い色と質感が印象的。
   それでも展覧会の流れは已然、抽象+キュビズム。中でもジャコモ・バッラの「スピード+音の抽象」が印象に残っている。画面を分断するような曲線の数々。それに赤、青、緑と、さまざまな色彩。とても絵で表現できないようなスピードや音を見事に抽象的に表現できている。
   続いて日本でもなじみ深いパウル・クレーの絵画。「カーテン」「庭の白い花」「花壇」。後者の二つはクレー流キュビズムって感じで、この展覧会の流れにあっている。
   それから同じく日本でなじみ深いアンリ・マティスの絵画が登場。「イタリア女」。タイトル通り、膝から上の女性の肖像。輪郭線のはっきりした印象的な絵。なによりも左肩が背景に包み込まれているような描写がある。そこがよくわからなくて不思議な絵。
   と少々、不思議だけど具象的な絵の並びに急に抽象画の大家が表れる。ヴァシリー・カンディンスキーの絵画四作品。初めの「雨の風景」はにじみのある色彩はシャガールの色彩を連想させる。その次が「青い円」。タイトル通り、青っぽい円。そのまわりに雲っぽい線。抽象画だからいろいろ連想してしまうんだけど、大きな円は地球を連想させる。次が「多様な動き」。何かよくわからない曲面の物体(というか曲線)がいっぱいあって、うねうねうねっていろんな動きをみせているようだ。それぞれはどこかユーモラスでかわいらしい。最後が「いくつかの円」。幻想的なシャボン玉。カンディンスキーの絵というと観念的で面白みがないとおもっていたけど、この四枚ともユーモラスで柔らかで暖かみがあって面白い。
   そして振り返ると、パブロ・ピカソの絵画。この展覧会のチラシにもチケットにもポスターにもなった絵画「黄色い髪の女」だ。えがかれているのはタイトル通り、黄色い髪の女性。寝顔だ。曲線がうまく調和していて、暖かみがあってやすらぐ。ディフォルメされているけど、別にキュビズムでもない。ポップな感じ。
   歩を進めると、サルバドール・ダリ、イヴ・タンギー、ルネ・マグリット、ジョルジョ・デ・キリコとシュルレアリスムの画家たちの絵画が並ぶ。ダリの絵はやっぱり精密だし(「無題」)、マグリットは良く出てくるテーマで、空中に浮かぶ鈴だ(「天空の声」)。
   その後、シンプルな抽象画が続く。初めの印象派の絵画にくらべ、かなりモダン・アート感が出てきている。中でも気に入ったのがジャン・エリオン「コンポジション」。画面にはかたまりがいくつかあるんだけど、画面の右下の端の方は陰影がつけられていて立体的なんだけど、対照的に画面の左上の端はのっぺりした色彩で平面的だ。なんか自己パロディーぽくて気に入っていた。他はジョゼフ・アルバース「正方形賛歌『顕現』」。ただ色違いの四角い枠が何重にもあるだけなんだけど、タイトルと合わせてみると奧が深く感じてしまう。
   ジョゼフ・アルバース「ふたり」。抽象化がすすみすぎて造形が認識できないほど(あるいはそれをねらっているのかも)。何が「ふたり」なんだか(ちなみに原題は「two」)。それとサム・フランシス「輝く背後」。心理学のテストでよく紙をあわせて、何の形に見える?って絵があるけど、これはそんな感じ。人が二人いるように見えた。アドルフ・ゴットリーブ「霞」。もうわびさびの世界。
   だんだんと抽象化、そして表現に「何でもあり」って印象がでてきた中、サイ・トゥオンブリー「無題」。もうなにかの製作途中?   っておもえるような絵画だ。鉛筆書きがふしぶしにみえるし、1,2,3と殴り書きのようなのもみえるし。そこらが面白い。
   トム・ウェッセルマン「ベッドルーム・ペインティングのための習作No.2」あたりからポップ感がでてくる。ロバート・ラウシェンバーグ「無題」。コラージュ作品っぽいんだけど、何かエンジンのカバーが絵に張り付いているのがすごく印象的。対する、ロイ・リクテンスタイン「In」。タイトルのまま、単に立体的なフォントで「IN」で書かれているだけ。ポップ!としか言いようがない。それとひときわ目に付くのがラリー・リヴァーズ「モダニスト・タイムズ」。チャップリンの映画モダン・タイムズの1シーン、チャップリンが大きな歯車の上で運ばれるってところを明るく描いている。立体作品。
   それからまたまたロイ・リクテンスタインの絵画。「涙の少女I」。この人の絵画はまるでマンガの一こま(セリフもスクリーントーンもあり)を拡大したような作品で有名なんだけど、この作品はシュール。少女の目の回りだけ、丸く切り出し、そこから黄色い髪が地面に垂れている。肌色は例のスクリーントーンのような肌色のドットで塗られている。目からは置物のような涙が地面におかれている。涙、髪の毛には地面に陰をおとしてる。空はスクリーントーンのような青い縞模様。とてもシュールな世界。ポップアートとシュルレアリスムの融合か?   なんて思ってしまう。
   あとはアンディ・ウォーホール。「オレンジ色の惨事   5番」と「セルフ・ポートレート」。前者は電気イスの写真のコピーがいくつも並べられていて、後者は名前の通り、ウォーホールの写真。

   ちょいと急ぎ足でみてしまったんだけど、それでもかなり充実感のある展覧会だった。





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