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美術鑑賞メモ「連続と侵犯」
030209
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<<美術鑑賞メモ「滋賀の現代作家展」



展覧会名:現代美術への視点   連続と侵犯
開催場所:国立国際美術館
開催期間:2003年1月16日〜3月23日
鑑賞日:2003年2月2日



   私が毎週チェックする番組に「新日曜美術館」というのがある。
   前番組が「日曜美術館」でその新しい番組だから「新日曜美術館
   名前から想像できるとおり、美術関連の一時間番組。NHK教育の日曜朝9時からやっている。
   前半はたいてい、ある作家にスポットを当てた特集。後半は現在、やっている展覧会の紹介なのだ。
   展覧会といっても現実の量を反映して、番組で紹介されるのは首都圏中心となる。だから、この展覧会、見に行きたいな、と思っても、首都圏から遠い我が家からは到底、行けそうにないのだ。
   ただし、多くの展覧会は首都圏を起点に各地を巡回するので、その予定さえ覚えていれば行ける場合が多い。貴重な情報源。

   今回、行った展覧会はそのパターン。
   東京近代美術館の紹介を番組を数ヶ月前に見かけて、ようやく行ける範囲の美術館へ巡回に来たというパターン。
   ただし、行く日まですっかりそんな巡回を忘れていて、たまたまネットで目にして行こうと決める。
   その美術館自体、夕方の五時にしまるんだけど、そこへ移動中、到着時間を計算すると、早くても四時前に到着するようだった。日を改めるという選択肢もあったんだけど、もう私は電車の中。交通費が勿体ない

   駆け足の鑑賞を覚悟する。
   幸い、混みそうな展覧会ではない。

   今回の展覧会は言ってみれば現代アート。いろんな現役アーティストの作品が見られるのだ。あと、番組を見た印象では、美術館の場をうまくつかった作品が多かったので、それが別の美術館でどうなるか、というのもチェックポイントである。

   JR茨木駅を下車、エキスポランド方面行きのバスに乗り、日本庭園前で降りる。
   そこは万博公園内の敷地で、そこを歩いて移動……いや、時間がなかったので、小走りに移動ということになる。

   焦りながら、移動していたせいか、バス停から目的地の国立国際美術館まで、とても遠く感じる。途中、いろんな施設があって、「これじゃない」とつぶやきながらの移動だった。遠くには岡本太郎先生の太陽の塔が見える。

   そしてようやく到着の国立国際美術館
   時刻は午後3時45分。我ながら、早く来れたもんだ。

   受付を済ませる。どうやら、三階から展覧会があるらしい。
   エレベータに乗り、三階へ。いつもの「ご挨拶」のパネルを見る。「東京国立近代美術館」の文字が見えるので、おそらく、使い回しなのだろう。しかし、これでどういった展覧会かつかめるからありがたいものだ。
   あと、そこにはどの作品がどこにあるかのパンフレットがある。これはとてもありがたい。
   で、当日は駆け足で見ていたんだけど、このページも駆け足(のつもり)で印象にのこった分だけ紹介した。

   始めに見える作品は絵画。ロラン・フレクスナーという方の作品とのこと。
   一見、ただの円形なマーブル模様が何作もならんでいるようなんだけど、ずっとみていると、何かの形に見えてくる。丘だったり、桜が満開だったり、いろいろ見えてしまう不思議な絵。

   その壁越しに次の作家のゾーンへ。ここは中山ダイスケという方。
   これも絵画作品(といっても糸とかも使っているけど)
   第一印象は、「これってナイトメアー・ビフォア・クリスマスのジャックやん!」と思ってしまう。いや、失礼。
   この絵の魅力は漫画的な単純な絵柄に見えて、実は哲学的なものを思い起こさし、何か、心の奥底からじんわりさせられた。

   次はロン・ミュエクさんのゾーン。立体作品「大きな赤ん坊♯3」。この人の作品の写真はチラシやポスターで取り上げられている。
   その作品は部屋の中央にある、赤ん坊の人形。皮膚の微妙な模様、髪の毛、目の光彩、一つ一つが表現されていてとてもリアル。ポスターや写真だと、本物の赤ちゃんの写真かと思うぐらいだ。
   しかし、その作品を見ても本物の赤ちゃんと間違うはずがない。いや、動かないからとか息をしていないからとかの理由じゃなく、単に巨大だからだ。
   ハイハイしている状態なので、その背丈ははっきりわからないが、小学生ぐらいはあるかと思う。
   しゃがんで、その巨大でリアルな赤ん坊人形を見ていると、こっちが小さくなったような錯覚を覚えるし、赤ちゃんに戻ったような感覚がよみがえる。不思議な心地。

   次は高嶺格さんの作品「God Bless America」。同名の歌がある。
   美術館の中に暗めの小部屋があって、そこに入るとまず奥の壁にあるスクリーンに目がいく。誰もその部屋には居ない。
   そのスクリーンに映し出されている映像は、とある赤い部屋。中央に巨大な粘土細工があって、左奥にベッド。右奥にソファーと机。共に赤い布で覆われている。
   スクリーン手前の実在の部屋に目を移すと、そこも赤い。なにやら絵が描いてある。上半身が鷹で足が人間という奇妙な絵がポーズをかえ数点。
   「God Bless America」の歌詞が繰り返し流れている。
   画面の中では粘土が三人ぐらいの男女に動かされたり、改造されたり、動いたり、コマ送りで流されている。なにかゴリラのような顔と思ったら、どんどん変化していって男女の顔になったり。それとは別に画面の中の男女は生活している。寝たり、ノートPC(Macintoshi)を動かしたり、食事したり、抱き合ったり。そんな様子がコマ送りで早く流される。画面上の部屋に外からの光が差し込んだり移動したりしているから、ものすごい勢いで時間が経過していることがわかる。なんだか走馬燈を見ているようでついつい引き込まれてしまう。

   で、全部、見ない内にその部屋を立ち去る。残念だけど、時間がない。

   となりの部屋は明るい。遠藤利克さんの作品だ。
   何を展示しているのだろうかと思い、その部屋の入り口のテロップを見てみる。

   「欲動─海馬III」 2002年   鉄、コイル、電流

とのこと。
   コイル?   それに電流って!?
   それと、「危ないですので、作品に触れないでください」という注意書き。「作品に触れないでください」ってのは良くある話で、先ほどもロン・ミュエクさんの「大きな赤ん坊♯3」にも書いていた。だけど「危ないですので」って書いてるのは珍しいし、それだけで迫力を感じてしまう。
   その「危ないですので」作品だけど、部屋の両側にそれぞれ十円玉の色をした板が張り付けられている。さっきの部屋からすでに気にはなっていた「ブーン」という重い音。何だろうと思って、その二つの金属板の間に立つ。そうすると、なにか体全体が細かく動く。そう感じる。
   ちょうど、ライブやコンサートで大きなスピーカーから重低音を全身で感じるようなもの。それをさらに機械的に短く繰り返ししたような感じ。
   見ることや聴くことじゃなく、全身で感じるアート作品
   うーん、良い感じ。できればここへずっといたい感じだ。
   一枚チラシの写真でこの作品を確認。その写真によると、入り口の両側にこの金属板がある感じ。んー、なるほど、Welcomeな感じですな。


   2階の展示場はさらりと見る。

   印象に残ったのキャンディス・ブレイツ。「二人のカレン」など。
   いや、紹介番組で見たというので見ておこうという大衆根性丸出しってこともある。
   二つのモニターが向かい合っている。両方ともカーペンターズのカレン・カーペンターが歌っているシーンがあるんだけど、片側のカレンは「わたし(I, my me)」としか歌っておらず、もう片方は「あなた(you, your, you)」としか歌っていない。


   大衆根性丸出しといえば、紹介番組を見て、あと見ておきたいと思ったのが、「墜ちた天使」って作品。確か、東京近代美術館では美術館内にその作品があったのではなく、外にあったはず。ここの美術館ではどうなっているのだろうと思い、作品の場所を記したパンフレットを見る。そうするとB1階屋外展示場にあることがわかる。先を急ぐ。一階、B1階と常設展会場となっていて、後で見ようと心に決め、どんどん突き進む。
   お目当ての作品はイリヤ&エミリア・カバコフさんの作品。

   しかし、なかなかお目にできない。パンフレットの地図を何度も見る。何回もパンフレットの向きを変える。
   しばらくしてようやくどこにあるかわかる。屋外にある。
   屋外に通じる扉をふと見ると、新聞記事……っぽい作品の一部だ。
   その記事を要約すると、美術展に行こうとした天使が失敗して美術館前で墜落したとのこと……うがった見たかをすると、東京近代美術展のときと合わせて二回、墜落したってことか(笑)

   その新聞記事は作品ではなく、その奥、つまり美術館の外にある。
   扉をひらき、そとへ。木造の柵がある。
   綺麗に敷き詰められているから向こう側が見えない。柵越しに覗けるように土台がある。
   階段をかけあがり土台を登る。
   柵の中には巨大な人間(人形だけど)が横たわっていた。大体、二倍ぐらいの背丈。
   大きいだけじゃなくて、タイトルや新聞記事っぽい作品の一部からわかるように、その人間の背には羽根が生えている。そして痛々しく折れている。
   さっきの記事と合わせていろいろ想像が膨らむ。
   この天使がそんなにまでして見たかった美術作品って何だったんだろう。
   冗談めかしい新聞記事では想像できない悲劇性がそこに横たわっていた。

   で、企画展の作品すべてを見終わって、ゆるりと常設展の作品を見ていた。
   そうすると、そこにもカバコフさんの作品があった。
   今度は巨大な作品じゃなく、ミニチュア作品。でもやっぱり天使に関わる作品。
   ある人が高いハシゴに登り切っている。そのハシゴの目指すところには天使が飛んでいる。やはり人の背丈の二倍はある。
   このカバコフさんにとって天使とは特別な意味があるのだろう。


   まだ閉館には時間があったので、高嶺格さんの作品「God Bless America」を最後まで見ていた。
   再び訪れた赤い部屋にはカップルが三組もいた。





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