<<
>>
傅燮ファンにおすすめ本
050629
<<目次


このページは?
   三国志サイトにありがちな三国志関連書籍紹介、もしくは好きな三国志人物関連書籍紹介をまねて見ました。孫家ではなく、なぜか傅燮(字、南容)。


   タイトルのどこかに「三国志」とつく本にある種、あきらめがあった。

   もちろん、これは陳寿撰の「三国志」のことではない。現代日本の小説、解説書、漫画などだ。その昔、手に取る本、手に取る本、ほとんどが「三国志」と「三国演義」とを誤認していたからだ。中には本の冒頭でその両者を誤認してはいけない、と書いておきながら、それに続く本文が明らかに誤認しているという笑うに笑えないものまである。また、訳本でもないのに、自らの著作に「三国志」とだけ銘打ち、歴史書とまったく同名にしている本は論外のような気がする。
   そのため、私はタイトルのどこかに「三国志」とつく本が目の前にあっても読まなくなった。思い返すと最近、読んだ三国志ものにはタイトルに「三国志」とついていない(例、「三國政権の構造と『名士』」)。それに、書かれている内容の時代が広かったり、ずれていたりしてもタイトルに「中国古代」と付いているものは喜んで読む傾向にあるようだ(例、「中国古代の服飾研究(増補版)」、「木簡・竹簡の語る中国古代」)。ただ語順が違って「古代中国」と書かれている本は経験上、読まないようになってしまった。

   こんな状況で、ふと、単に私は読まず嫌いなのかな、と思うことがある。
   そんな中で出会ったのが、高島俊男先生/著「三国志[人物縦横談]」(大修館書店、1994年、ISBN 4-469-23097-9)という本。きっちりタイトルに「三国志」と入っている。
   なんで、この本に出会ったかというと、ネットである三国志関連の人物のことを調べていたからだ。その人物は傅燮(字、南容)。三国志関連の人物と書いたけど、三国志に名前が載っていない人。だけど、三国志がフォローする時代、後漢末にはしっかりと活躍し、「後漢書」にはその名が載っているどころかしっかりと伝が立てられている。
   と、いくら活躍したからといって、三国志に載っていない人物だからこそ、三国志ファンの間では無名。三国志ファンが高じて後漢書も読むようになったファンでもスルーしがち。後漢書を元ネタにしたことが売りな(?)宮城谷三国志でも傅燮は出てこないようだ。(→2005年7月26日追記、とこれは清岡の思い違いのようで、出てくるようです……というか久々にやっちまったようです・汗)
   私は「後漢紀」で傅燮を知ってファンになったんだけど、やっぱり史書に馴染みがなかったら三国志ファンでも傅燮を知ることは難しい。なので、どこか本か何かに傅燮が載っていないか、ひいては傅燮ファンができる可能性はないか、とふと思い立ち、ネットで「傅燮」というキーワードであれこれ探していた。そこで見かけたのが上記の「三国志[人物縦横談]」という本。そのネットのページには目次が載っている。その本はどうやら人物ごとに紹介されていて、傅燮は一つの項目としてあげられている。「西方の暴れ者」という大きなくくりの中に入っているのだ……って別に傅燮は暴れ者じゃないぞ、と突っ込みを心の中で入れていたが、他の人物が、北宮伯玉辺章、王国、馬騰馬超韓遂だったので傅燮以外は納得。それで最寄りの図書館にこの本が置いてないかと、その図書館のサイトの検索で探してみると、あったあった。で、さっそく借りてみる。
   傅燮は確かに「西方の暴れ者」という項目に出ていた。上記の人々とともに「群雄の一人」(あるいは独立勢力)とかなんとかいって、誤解されたまま登場していたらどうしようと思いつつ、おそるおそるページをめくってみる。
   さらっと読んでみると、まとも。というか、私が今まで見てきた三国志ものでは一番、じゃないのか、と思うぐらいだった。話は中平二年(西暦185年)の涼州の乱のときに傅燮が進言するところ(>>参照)から、そして傅燮の最期までを紹介している。基本的に後漢書の傅燮伝を読み解きつつ、その都度、解説を入れていくというスタイル。こうかくと読んでいくうちに眠くなりそうなかんじだけど、そうじゃない。冒頭から傅燮の核心に迫る。曰く「立派な人物、と言えば言える。愚かな男、と言えばまたそうも言える」、と。これでぐいっと文に引き込まれる。また、傅燮は生涯、数々の歴史に残るセリフを吐いているんだけど(歴史に残っているから私が知っているんだけど)、傅燮の言葉は故事(つまり傅燮の時代より古いエピソード)にのっとったものが多く、得てして三国志以外の中国史に疎い三国志ファン(私のことだけど)には、難解なことが多い。だけど、この本ではそのフォローはわかりやすい説明でバッチリ。もちろん、傅燮のことだけでなく、その背景となるできごともおさえている。銅臭の話(>>参照)とか、涼州の刺史の話(>>参照)とか。
   孔子の弟子にちなんで自らの字(あざな)を「幼起」から「南容」に改めた話(>>参照)は載ってないものの、まとまった文量で傅燮のことが書かれているし、何よりわかりやすい!   ということで傅燮のことを知らない人に傅燮ファンとしてまずこれをおすすめするのかな?   とはいっても、これ以外の三国志系の本で傅燮のことが書かれている本は知らないだけなんだけど。例えどこかの解説書にちょっと書かれていてもこの本以上に傅燮ファンが満足できるのはなさそうだ。しかも1994年なんて10年も前の発行だなんて、驚きだ。この本に出会えなかったのが惜しいぐらいだ。
   ちなみにこの本はハードカバーだけど、「三国志   きらめく群像」(筑摩書房、2000年、ISBN 4-480-03603-2)というタイトルで文庫化されている。おそらくこの文庫の方が手に入りやすいだろう。

   さて、傅燮のことを広めたい場合はこの「三国志[人物縦横談]」、もしくはそれを文庫化した本の「三国志   きらめく群像」をとりあえず、読んでもらうと良い。
   え?   傅燮のことを広めたくないって?   そういうあなたにこそ、これらの本で、傅燮のところを読んでもらいたい。






<<
>>