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美術鑑賞メモ「ギュンター・ユッカー」
040704
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展覧会名:ギュンター・ユッカー   虐待されし人間
開催場所:伊丹市立美術館
開催期間:2004年5月22日(土)〜7月4日(日)
鑑賞日:2004年7月3日(土)



   何か感じたことを言葉だけで伝えようとすると、自らの表現力が足りないのも合わさって、なかなかうまく伝えることができないことがある。
   毎回、そうだけど、今回は特にそう。もっとも完全に言葉で表現できたら、わざわざ見に行く意味がなくなってくるんだけど。

   今回の展覧会を知ったのが、チラシから。多分、マルモッタン美術館展<<参考)でもらったやつだ。そのチラシにはギュンター・ユッカーなる人物の作品が写真で載っていた。その作品は立体作品。木製で、板に四本の足が付いていてテーブルや背もたれのない四角いイスみたいな形。実際、テーブルというタイトル。それより目立つのが、その平らの部分の下っかわに氷柱みたいに何本もの杭みたいなのがぶら下がっている。チラシの裏を見ると何作か立体作品の写真があるんだけど、どれも奇妙な形。それで展覧会名をみると、「ギュンター・ユッカー   虐待されし人間」となっている。
   こりゃ面白そうだ。見に行こう、なんて思っていたんだけど、気付いたら期間最終日の前日。このところ美術展通いが続いてたんで、少し食傷気味だったけど、仕方ないな、って感じで、家を後にする。

   場所は伊丹市立美術館。初めていく場所。
   チラシの地図をたよりに探しつつふらふらと歩を進める。
   そして現れたのが、日本家屋なデザインの美術館。壁に大きな「ギュンター・ユッカー   虐待されし人間」のポスターがあったのですぐわかる。外から見てもそれほど大きな美術館ではなさそう。コンパクトにおさまっている予感。
   美術館に足を踏み入れると、まず目の前に、ユッカーの作品。そうチラシの作品、「テーブル」だ。入館料を払う前に見ていいのかしら、と思いながら、右の受付にいく。
   私の前に先客がいて、受付の人に説明を受けていた。どうやら、作品が二階にあったり地下にあったり別の棟にあったりするらしい。二カ所ほどチケットを確認されるところがあるとのこと。なるほど。何だか、オリエンテーリングのイメージ。
   受付の私の番が回ってきたんだけど、やっぱりさっきと同じ説明だった。マップ付きの作品一覧をもらう。やっぱりオリエンテーリングのイメージ。

   とりあえず受付で説明受けたとおり、二階へ足を運ぶ。階段をあがってすぐ左でチケットの半券を切ってもらう。右手にビデオを視聴するコーナーがあって、いつもだったら、通り過ぎるんだけど、今回は美術館もアーティストも何も予備知識がなかったし、時間に余裕があったので、ビデオを見ることにする。
   映像はひたすら、ドイツ人のユッカーさんが作品をつくっていくところだ。
   黒い線が碁盤のように引かれていて、その交差点に釘の先端が次々、でてくる。もちろんうちつける音付きで。ユッカーさんが手を白いペンキで塗りたくり、床(?)を手で塗っていく。木の角棒の先端の角を小さな斧で二、三回、たたき落とし、角棒を荒くとがらせる。石のまわりの板を釘でちょっとだけ打ち付け、その釘を曲げ、石を釘で抱くような状態にする。石を布で縛り垂らす。上から垂れ下がる角棒を手で部分的に白く塗る。そんな日常で見られないような映像が次々、出てくる。思わず引き込まれる。これがどう作品になっているか楽しみだ。

   階段あがって、左手の部屋に入っていく。部屋を入ってまず目に付いたのが右の壁にかけてある作品。碁盤のように、木の板に黒い升目が書かれてあって、どの線の交差点からも釘の先端がこちら側へ飛び出ている。ふつう、釘というと、釘の先端は見えないところにあり、見えるのは釘の頭なんだけど。だから、かなり作品がこちらへ訴えかけているようだった。タイトルは「攻撃的領域」。私としては英語題の「Aggressive Field」の方がイメージにぴったりだ。アグレッシブで頼もしいけど、痛々しい。材料は釘、木、黒鉛。なるほどね。
   次に同じ壁沿いで、面が違うところの作品。
   まず目に付くのは黄色いデコボコ。壁にかけてある。タイトルは「大きな黄色の絵画」。なるほどね。ただ単なる黄色を「絵画」っていうあたりが何かいろいろ連想してしまう。奥が深い。
   メインの黄色は材料からいって「カドミウム・イエロー」とのこと。絵画があるんだから、きっちり額縁もある。木の枠があって、四つの「辺」から外側にむかって辺に垂直にやっぱり木の角材が延びている。やっぱりその先端はとがっている。一辺あたり七本。計28本。ちなみによく見ると、ローマ数字で下の辺と木の棒にナンバリングしている。VIIまで。ちゃんと辺と棒との数字が対応している。上の辺はアラビア数字。布で隠れて辺の方は見えないけど、おそらく数字がうっているんだろう。
   次が部屋の真ん中の作品と、入り口から入って左側の壁の作品。どうもセットの作品らしい。
   実のところ、この部屋に入って、長い間、気になっていたのが、左壁の作品だ。
   日本語で「連れ去る」とか「刺殺」とか単語が書いているし!   左の壁には額縁が横に何枚か並んでいて、それぞれに何かネガティブな日本語か書かれてある。よく見ると、ちゃんとトメやハネなど書道っぽい。だけど、字のバランスがわるい。その分、迫力のある字だ。内容もそうだけど。それから日本語の文字の左下に小さく鉛筆でドイツ語の単語が書かれている。
   なんだ?   とチラシを見ると、作品名は「人間による人間の侵害   ドイツ語と日本語による旧約聖書からの60の言葉」とのこと。制作年は他と同じく1992とあった。これ、ユッカーさんが書いたのかな?   はて?
   とにかく「釘を打つ」、「渇望」、「脅迫」とかちょいとネガティブ気味な変ワードは旧約聖書からの引用だと納得する。
   それから真ん中の作品はというと。大きなクワがよっつぐらいおいてあって、その下敷きに額縁が無造作に何枚か重ねられている。その額縁にはドイツ語で白地に白い文字で単語がなにやら書かれてある。これも旧約聖書からの引用だね。タイトルは「レーキ/くわ」。
   クワはやっぱり、木。先のとがった角材。それからところどころに塗られた白い塗料。

   チラシに写っている「人間による人間の侵害   ドイツ語と日本語による旧約聖書からの60の言葉」はドイツ語で、一つの単語の書かれた額縁は5行×12列=60個、あるんだけど、目の前の額縁は60にはほど遠い数。マップを見ると、この作品のあるのは会場に四カ所ある。なるほど、物理的に一度に展示できないから会場に点在しているんだ。しかもそれは日本語だ。
   見に行こうと思い、次のスペースへと向かう。二階のビデオや受付のスペースの反対側の部屋だ。
   その部屋に入って、すぐ目に付くのはやっぱり「人間による人間の侵害」。今度は入って左右の壁に掛けられている。額縁にかけられた、言ってみれば「書道」を見る前に、いりぐちすぐの作品に目を移す。床に丸い凸が数個ある。高さは足首ぐらいだ。やっぱり木だ。上面はやっぱり白く塗っている。だけど、今までの下地がはっきりと見える塗り方じゃなくて、下地が全く見えないきっちりとした塗り方。どの丸い木もそうだ。タイトルは「白い涙」。なるほどね。妙に綺麗だしね。
   次はやっぱり「人間による人間の侵害」。今回、それとセットなのが「道具(言葉に乗った)」だ。前のスペースの「レーキ/くわ」と同じく、床に白地に白い文字で書かれたドイツ語の単語の額縁たち。さっきと違って、それらの額縁は無造作に重ねられているのではなく床にタイルのようにきっちり敷き詰められている。その上に、二つの車輪のような「道具」。その道具は人間大の大きさで、木製だ。木の棒でシンプルに作られた多角形の枠(車輪っぽい)にが二つ。二つの多角形から放射状に木の棒がでている。やっぱり杭みたいに先がとがっている。もうすでに私の頭はこれらを理屈でとらえようとせず、ありのままにとらえようとしている。
   再び、床の額縁をみる。ドイツ語の単語。いくつか見覚えがある。左右の壁の日本語の単語をみる。先のスペースとおなじように日本語の単語の左下にちいさく鉛筆でドイツ語の単語が書かれている。多分、日本語と対応しているんだろう。その壁の小さなドイツ語の単語と床のドイツ語の単語を見比べてみる。やっぱりいくつか同じ単語がある。
   単語はやっぱり何だかネガティブ。「絶望」、「折檻」、「誹謗」、「絞殺」……
   この不思議な攻撃性に何だか惹かれてしまう。だけど自分なりの意味をあまり探ろうとしていない。この感覚が心地よい。

   次が「道具   傷、包帯」。子供大ぐらいの大きさの丸っこい木の塊にタイトル通り包帯がぐるぐる巻きに巻かれている。その上から白くペインティングされている。白い布はさっきからたまに出てきている材料だけど、確かに包帯を連想させる(それにぐるぐるまきだし)。
   その次が「かまど」。子供大ぐらいの木の四角い箱。木の足がついていて、腰の高さにその直方体の箱がある。六面のうち、前面だけが開いていて、中が見れる。他の面は開いてる面の対面をのぞいて、釘が何十本も途中まで打ち付けられている。釘の頭が外側で、先端が内側。開いてる面からのぞくと、釘の先端が何十本も見える。とても痛々しい。よく見ると、箱の中の奥にモニターがある。なにやら燃えている光景。床にSONY製のDVDプレイヤーがおいてある。
   「ギュンター・ユッカーの言葉   傷、包帯、沈静化された攻撃的道具」というタイトルの両面印刷のプリントが無料配布されていたんだけど、それをみると、どうやら、この作品(そのプリントでは「ロストックのかまど」とタイトル付け?)のインスピレーションは「人々が家にいるまま火をかけられ殺された事件」にあるようだ。道理で。
   さて、次のスペースへ、と思っていたら、二階のところにいくつかポスターがある。その中で、栃木県立美術館のポスターがあった。ユッカー展の次回の巡回先のようだ。ところが展覧会のタイトルを見ると、今回、伊丹のと違ったタイトル。
「釘男   ギュンター・ユッカー   虐待されし人間」?!   「釘男」って。(私はどちらかというと「杭男」ってイメージかな)

   それから再び一階へ。ここは三作品。冒頭で紹介した「テーブル」の他に「」と「ハロー/まぐわ」の二つ。
   「樹」はにょっきりと床からでている丸っこい木の塊(灰色なので石に見えたけど)。その頭の方で何十本も打ち付けられた釘。釘は最後まで打ち付けられておらずそれにどれも無造作に釘が曲げられているので、まるで木の塊から釘が生えているようだ。無機質にみられる躍動感・生命感。変な感じ。
   一階は内側の庭に面したところは全面ガラス張りで明るいところ。そのガラスに何枚かユッカーさんやユッカーさんの作品のモノクロ写真がある。

   それを横目に次のスペースへ足を運ぶ。次は地下だ。受付にチケットを見せる。
   まず目に付いたのが「灰まみれの庭」。壁にかけている作品だ。タイトル通り木の全面(前面)、灰がまぶされている。その平面からこちら側へ出っ張っているのがコブシ大の丸っこい石。それが数個。何で下に落ちないかというと一目瞭然。石の周りの木に数本、釘が打ち付けられていて、その釘が曲げられ、石につけられ、石を支えている。ちょうど木の前面から何本かの釘が石を抱いている感じだ。初めにみたビデオで作成中の映像を覚えている。
   とにかくただの釘と石なのに、こんなに生命感を感じるとは。ただ少し虫をみるような気持ち悪さはあるけど。
   それの右隣は「絵画のような庭」。壁にかけられている作品。木の板の向こう側から石が打ち付けられ、こちら側に飛び出ている。その上から白く塗っている。さっきのような生々しさはなく、タイトル通り絵画のような綺麗さがあるのだ。私的にはどちらかというと庭のような絵画かな。
   後ろの壁をみると、ここにもあった「人間による人間の侵害」。あいかわらずの魅力的な文字群。
   その左側には立体作品「吊り石の森」。これもビデオでみた。何本か丸っこい木の塊が床から延びていて、それぞれ布が何本か垂れ下がっている。その布の先を追うと、先にこぶし大の石がくくりつけられている。あいかわらず無機的なものに生命が宿っているようだ。手塚治虫先生の「火の鳥」復活編を彷彿とさせる(わかる人にはわかる喩え)。
   あと、壁にかけている作品の「灰燼」。

   次のスペースの部屋に入る。
   まず機械的な音が気になった。部屋の中央にその音の元があった。何か動いている。
   人間の長さほどある木の棒が二本。床に上へ垂直に延びているのが一本。床から少し浮いていて床に平行なのが一本。後者の木の横棒の中心は縦棒に固定されている。縦棒の先端から斜めに横棒の両端へとロープが張ってある。二本の棒はちょうど船のマストのよう。
   縦棒を中心軸に、横棒は地をはうように回転している。その回転のモーターの音が機械音の正体だ。
   横棒には何本もロープが垂らされている。横棒は回転しているもんだから、ロープは床に引きずられている。円周に引きずられている。床には砂や小石が敷き詰められているので、ロープの後が明確に見える。
   タイトルは「鞭挽き盤」。
   この美術展が始まってからずっとこの鞭挽き盤が砂地にロープの後をつけ続けていると思うと、不思議な気分だ。回り始めた頃は、ロープの後がほとんどつけられておらず、回るたびにロープの跡がつけられ、しばらく砂地はいろんな姿を見せていたんだろうけど、ある程度、時が経つと、ほとんど変わらない砂地になったんだろうな、と思うと変な小宇宙を感じる。そして次の栃木でもそんな小宇宙をつくるんだろうか。
   ちなみに材質は「縄、木、砂、電動モーター」とのこと。
   あと、「鞭挽き盤」の背景の壁には例の「人間による人間の侵害   ドイツ語と日本語による旧約聖書からの60の言葉」の一部。日本語だ。そんな部屋だから、連想するのは日本の「禅」。禅を知っている人からみたら明らかに違うんだけど、このズレっぷりが面白い。この部屋に、微妙に間違った衣装を着せたニセ禅僧をつれてきて瞑想(座禅ではなく)をさせてみたいもんだ。挨拶はやっぱり胸に両手を合わせてお辞儀だろうな。
   この「人間による人間の侵害」で他のスペースとは様子が違う点がひとつ。それは「根絶」の文字。そのとなりに鏡でうつしたような「根絶」の文字。左下に鉛筆で書かれた「aus」(「u」の上に「〜」があるんだけど)の文字も反転している。一階の白黒写真、それにチラシの裏の写真にも見られるドイツ語版「人間による人間の侵害」の「aus」も鏡像との一対になっていた。何か意味があるんだろうな。

   最後のスペースは別棟にある。一階にあがって、そこ「旧岡田家住宅(酒蔵)」に行く。途中で旧石橋家住宅の横を通ったり、美術館の中とは雰囲気ががらりと変わる。旧岡田家住宅(酒蔵)の中もそれにまつわる展示物がある。その中にぽつりと出てくるのが作品「険しい小道」。
   例の木の杭のような、先端のとがった棒が、櫛形に組み立てられ、その櫛が床に置かれている。小道状に置かれている。そこを歩くには杭にふれそうで確かに険しい。たしか初めにみたビデオで白塗りの足がこの小道をとおる映像があったなぁ。
   木製なもんだから妙にこの酒蔵にあっている。だけど明らかに異質だ。

   しばらく見た後、その場を離れる。よく言葉で表現できないけど、私の心には何か残ったことは確かなんだけど。




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