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本日から話題の「赤壁」が公開されました。
そこでちょいと個人的な映画に関する感想です。
この映画には特別な思いが小生には有る。三年前の事であるが、この映画の美術監督である香港の葉氏が、小生の大学の研究室を訪ねられ、当時の武器とか衣服とか戦いの様子などをお聞きになった。
小生の分かる範囲で一応答えたが、その時小生が、「今年は私は一年間の休暇で閑だから、中国の赤壁のロケ現場をぜひ見学したいもんだ」と言ったら、葉氏が「見学は良いですが残念な事に今年はまだロケせずセット撮影なんですよ、現場のロケは来年なんですよ」と言われ、小生が最後に、「ジョンさんの監督だから派手に撮りたいだろうが、決して火薬は使ってはだめですよ、火薬は使った瞬間にこの話が嘘っぱちになってしまいます」と答え、葉氏が苦笑いしておられたのを、今でも覚えている。
さてそこで、火薬は使われたのか否か、答えは一部否(但し,、パートTのことで、パートUは画像から見る限り使っている、油の樽が爆発するシーンは、思わず「何でだよ」と言ってしまう。何故なら当時の油は、精製純度の低い植物系油であれば、火を付けてナパーム的に広がることは有っても、上部に爆発するほどの揮発性は無いはず)である。
また小道具も一見して分かる当時存在しなかった物(周瑜らが楼上で酒を飲むシーンの杯に、黒釉と褐釉の杯が出るが、あれは宋代から登場する形態と釉薬の杯で、当時は存在しない)が使われていたりする。
或いは、戦闘場面や避難場面に大量動員されたエキストラであるが、引いたアングルでの場面ではさほど気にならないが、アップになった時に顔の表情にあまりにも締まりがが無く、「おいおい、これが逃げまどっている人や、これから死にに行く人間の顔かよ、アップの時ぐらいはエキストラでもメーキャップさせて顔の演技ぐらいさせろよ」と思うと、一瞬場面としての緊張感が弛み何処かにやけた感じを与えてしまう。
更に言えばシーン的に、当時の武器である槍で鎧を纏った人を数人団子の如く串刺しにするのは、リアルさの点で疑問符が就き、思わず「おいおいやりすぎだぞ」と言いたくなる。或いは、楯を返して光を反射させ敵の目を眩ますシーンは、1993年の王晶監督の『倚天屠龍記』で同じパターンが有ったのでは?。關羽が刀を蹴り上げるシーンは、「MIー2」でトムクルーズが砂中の拳銃を蹴り上げるシーンとダブルし、白鳩も何処か「MIー2」にダブってしまう。また、「こんな場面は赤壁には無かったぞ」と頭をひねるシーン。等々コアな三国志迷にとっては気になる点や問題点が全く無い訳では無い。
しかし、まあ流石にジョン監督でハリウッド映画である。見せる、見せる、大スペクタルである。「相変わらず派手にやって見せるなあ」と思って見ていれば、それなりに楽しい。
役者も錚々たるメンバーで日、台、香、中、米の五国合作の大娯楽映画である。曹操は張豊毅(中、TVドラマ「風雲大清」のドルゴン役の名優)、劉備は尤勇(中、多数の中国映画に出演した名脇役)、孫権は張震(台、「クー嶺街少年殺人事件」から既に17年が経った)、関羽は巴森似乎並(中、ジンギスカンの次男察合台の後裔と言われている)、張飛は臧金生(中、TVドラマ「水滸伝」で活躍)、趙雲は胡軍(中、「東宮西宮」で趙薇と共演)、周喩が梁朝偉(香、「非常城市」で出色の演技を見せた)、孔明が金城武(台、一寸問題かも、でも07年の「投名状」は良かったよ)、大喬は張静初(中)、小喬は林志玲(台、人気モデルで映画初出演)、劉備の第三夫人となる孫尚香は趙薇(中、「画魂」で映画デビュー、TVドラマ「還珠格格」で大ブレイク)、呉の猛将甘寧は中村獅童(日、梨園の名門萬屋の一員)、と言う具合である。
まるで歌舞伎の名場面を見る如く、趙雲が関羽が張飛が暴れまくる。しかも御馴染の場面で見得を切る、これでもかと言う具合に大立ち回りを見せて見せて見せまくる。甘寧に至っては、人を飛び越えての立ち回りである。
彼らのアクションが、音楽監督である岩代氏の太鼓を基調とした音楽の、テンポの好いリズムに乗って展開される。 見せます、見せます大アクション、さすがハリウッド、さすがジョン監督と言うべきである。ジョン監督は、「アジア映画でも、ハリウッド映画でもなく、世界映画なのです」と言っておられるみたいだが、その心意気は良しとするも、如何せん「ハリウッド映画」である。恐らくジョン監督は、日本に於ける江戸以来の日本人の三国志に関する嗜好と、現在に至るまでのその展開を、あまりご存じ無かったのであろうと思う。
この映画は、「三国志」と思うと「????」が付いてしまう。要するに三国時代を題材にした「ハリウッドの大スペクタルアクション映画」と思えば好いのである。「ハリウッド製大アクション映画」、それ以上でもそれ以下でもない。CGを多用するのはスペクタル映画の常道でもありご愛敬でもあるが、全くのフイクション映画では無く、所謂正史の『三国志』に依拠した歴史小説『三国志演義』の赤壁の映画化と考えると、「ウーン、ムムムムム」個人的には「虎」のシーンが鼻につき白ける。
但し、映像美と音楽は非常に好いし、カメラワークも面白い。俯瞰場面とアップ場面のメリハリやスケール感等は、撮影監督と編集の手腕であろう。更に言えば、美術監督葉氏と音楽監督岩代氏に助けられた映画とも言えるだろうが、しかしこれだけのスタッフを集められたのは、将にジョン監督の力量乃至は人徳であろう。
アクション映画と思えば、何が何でも後半の決戦を見ないわけには行かないが、この映画のコンセプトは、「女」である。何故赤壁の決戦が起きたか、それは偏に曹操が呉の小喬を求めたが為である、と言う筋書きである。女を求める燃えたぎった赤い情念は、紅蓮の赤壁の炎の中でどうなるのか、女が引き起こした世紀の決戦、果たして如何なる映像を見せてくれるのか。
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