日本人は「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」を「日本史」の史料として読みます。日本史の教科書にも出てきます。しかし著者の陳寿は中国人でした。彼はこの 記録をあくまで「中国史」の一部として書いたのです。陳寿は、中国文明衰退の予感と、中国文明の遺産を継承する外国は古代の日本を含む東夷の世界になるだ ろう、という予測を婉曲に述べています。当時の中国人の視点から「魏志倭人伝」を読み直すと、邪馬台国の女王・卑弥呼の時代の日本は、また違ったイメージ で見えてきます。
実は「魏志倭人伝」という本は存在しません。陳寿が書いた歴史書『三国志』の中の「魏書」の、さらにその中の「烏丸鮮卑東夷伝」の「倭人について書いてあ るくだり」を指して「魏志倭人伝」と呼んでいるだけです。「烏丸鮮卑東夷伝」全体を読まずに「魏志倭人伝」だけを拾って読むと、いろいろ誤解してしまいま す。
本講座では、『三国志』を書いた陳寿の著述スタンスや、当時の中国人の世界観や「国の格付け」のコンセプトについて、わかりやすく説明します。