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『曹孟徳はこの俺だ! 信じた男のため、俺の命をくれてやろう!!』
ということで、私にとっての「名場面・その1」は、曹真伝の注の
『魏略』から、そこそこ有名な秦伯南の話。ただ、真偽のほどは、
さだかではありません。
以下、超訳してみました。
興平末期のこと、
袁術の一党に追われた曹操は、秦伯南の邸に逃げ込むことに
したのだった。
伯南は邸の門を開き、曹操を暖かく迎え入れた。
迫りくる賊。
伯南は、邸の奥に曹操を匿った。
賊達は伯南の邸を取り囲み、叫んだ。
「曹操はどこじゃコラァ。ここにいるのは、わかっとんじゃコラァ!」
もはや逃れることはできぬと観念して、討ってでようとする曹操。
秦伯南は、曹操を押し留め、諭した。
「あなたは、今の世になくてはならないお方。何があろうと
邸の外に出てはなりません」
「だが、賊どもが、ここに押しかけてくるのは時間の問題じゃ。
今討って出なければ、万に一つも生き残ることはできまい」
「今討って出ても、犬死になさるだけです。ここは私に策が
あります」
「し、しかし……」
なおも言いかける曹操に、伯南は静かに微笑して言った。
「私にお任せ下され」
この危機的な状況に、あまりにもそぐわぬその微笑みを
見て、曹操は何も言うことができなくなった。
(この男は、まさか…)
曹操は思ったが、極度の緊迫状態の中、彼は、その先を
考えることを放棄した。
こうなれば、もう、彼に任せるより他はない。
伯南は従者に、絶対に曹操を出さぬよう申し付けると、
賊が囲む、邸の門の前へと向かった。
その足取りに、怯みはなかった。
邸から、突然に男が現れたので、賊達はざわめいた。
「だ、誰だ、テメエは?」
秦伯南は、毅然とした、そして淀みのない声で宣言した。
「わしが曹孟徳だ」
賊達は、騒然となり殺気立った。
秦伯南は、なぜか笑みを浮かべた。
賊達が、猛然と向かってきた。
秦伯南は剣を抜いた。
刀身に陽光がきらめいた。
***
程なくして−
秦伯南は賊によって切り刻まれた。
満足した賊は、早々に立ち去った。
倒れた伯南の衣服が風に揺らいだ。
***
伯南の亡骸を前に、曹操は涙を流した。
「伯南よ、お前はわしの身代わりとなって死んだのじゃ。
今度はわしが、お前の代わりとなって、父として、
お前の息子を立派に育ててみせようぞ」
その時、曹操の傍らには、幼子がいた。父の死の意味も
まだよくわかっていないこの幼子―秦伯南の息子―こそ、
のちの魏の大将軍・曹真であった。
彼は、この時より、曹操の一族の子として、育てられる
こととなる。
そして秦伯南も、曹操の一族・曹伯南として葬られたのである。
以上
ということで、まるっきり超訳してみました。
うーん。こういう文章は、まったく苦手です。
この名場面の良さが、少しでもマトモにお伝えできたのか
心配ですが、まあ、実験ということにさせていただいて。
御意見、御感想、御指摘などを賜れれば幸いです。
いたずらに筆を弄んだ感あり
ジョージ真壁
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